
平成21年12月17日
高島易断の占例~坤為地初六の占例
記載なし。
六二の占例
記載なし。
六三の占例
記載なし。
六四の占例
その一。
福原氏のために、石清水神社の盛況如何を占う。
明治十八年、初夏の某日、元老院議官福原実と楫取素彦の両君が、石清水八幡宮司の福原誠介氏を誘って来た。
共に易理の話をしていたときに、福原誠介氏から、石清水神社の盛況如何を占ってほしいと頼まれ、筮して坤の予に之くに遇った。
坤の卦は月に配すれば陰暦の十月である。
十月は、日本では神無月と称し、日本中の諸神がみな出雲の大神に会合しに行くという。
今、神社を占って神無月の卦を得たのは、この神社の神はいわゆる神馬に騎乗して一鞭あてて遠くに去っていて、社殿に鎮座していないことを示しているのである。
なおかつ坤は純陰にして、陽がない。
坤は大地だから形あるものにして、乾は天空だから形のないものとする。
これは、社殿があって神霊はいない様子である。
一方、四爻変の爻辞には、括嚢无咎无誉、とある。
これは、神霊がいないために、利が生じることもないが、罰もないことを言っているのである。
したがって、例え社殿を広壮華麗にし、山海の神饌物を八台九台と供え、沐浴潔斎して神事を修し、祭典を行っても、神は嚢を括って遠行不在中にして、祝詞(のりと)をも聞食(きこしめ)すには至らない。
よって、労して功無く、利も罰も無いのである。
ただし、今、謹んでこれを考えると、神明の御不在は出雲へ行っているのではなく、恐らくは国家衛護のために、宮中へ渡御されているのだろう。
私には、その神験かと思い当たるところがある。
伝え聞くところによると、ある外国公使が謁見を賜ったとき、そのときの勅裁の詔がとても素晴らしい御明断であったので、外国公使もその御叡断を感嘆して低頭拝礼し、列座の大臣、宮内卿、外務卿、式部長官等の諸公、何れも拝感敬服されたとのこと。
これは天皇陛下の叡聖におはしますことより出たとしても、寧ろまた神霊の冥々に国家を愛護して、これが威力を加えたのではないだろうか。
微賤な我輩としても、至誠を以ってこれを奉じ、赤心を以ってこれに仕えれば、その神感を蒙りたいものである。
したがって、今、石清水神社にしても、外見を立派にしようと、宮柱を虚飾し、瑞籬玉垣を壮麗にするよりも、至誠感応の実力を得て、これを公民に施し、神徳を著明し、神威を拡張させることが大事ではないだろうか。
三氏はこれを聞いて、易理が神についても通じていることに信服して、去って行った。
その二。
易占によって、共同運輸会社に意見を述べる。
私はある日、東京に出かけたのだが、共同運輸会社の前を通ったとき、ふと気がかりに思うところがあり、車上にて占い、坤の予に之くを得た。
よって、その気がかりに思うところが何なのかを判断した。
坤は利を主とする卦だが、四爻変の爻辞は括嚢无咎无誉である。
この会社は、何か事をなすときに慎密に過ぎることが、恰も嚢を括って出ないようなので、咎の無い程度の小得はあるとしても、誉の無い大失もある者である。
これは、能力があるのに、徒に内国運輸の小利に止まり、広く海外に事業を展開して国益を大いにする大業に進出することを躊躇っている様子である。
とすると、私見を述べ、彼が盛業をさらに博大にする指針を備えるよう、社長に忠告せずにはいられない。
そこで、名刺を差し出して、社長に会いたいと願い出た。
社長伊藤雋吉と遠武秀行の両氏が速やかに出迎え、挨拶が終わって社業の事に話が及んだ。
私は意見を吐露した。
まさに今、開明庶政完全進歩の美、実に日一日より新たであり、盛んである。
熟考するに、我が日本国は東海の一島だとしても、人口の多いことは国土の広さに過ぎていると聞く。
これに加えて、近時は種痘衛生の保護が行き渡り、良医輩出して、簡単に人命を害することもなくなった。
その結果、病死を免れ、天寿を全うする者も増えていて、この年の統計によれば、人口増加は一年に四十万人に及ぶ。
このようにして年を積めば、将来邦土より生産する食料は、全人口を育養するには足りなくなることを恐れる。
昔の人は、次のようなことを言った。
治平久しきときは人口が年を追って増え、増えて邦土の量に過ぎ、以って育養するに足らざるときは、天これをして平均せしめんがために疾病を流行らせるか、戦争を興して殺し合いをさせて人口を間引き、丁度よい人口になると止む。
ただしこれは、過去の仮説であって、今は違う。
疫病は、検疫予防病院衛生の備えが有るので蔓延を防げる。
今年も伝染病が少しは流行ったが、大したことはなかった。
戦争は公法条約講和償金の設が有り、暴乱惨虐の限りを尽くさないので、戦闘があってもあまり大勢が死ぬようなことはない。
これを以って観れば、この過去の仮説は今や虚論に属すものである。
時運がこのようであれば、人口増加による過量を養うに足りないことに応じる手立てを考え、生育すべきの途を啓き、益々国を美とする術を講じるべきである。
その術を講じるには、広く邦土の外に植民地を拓き、以って内国の邦土とし、ここに人々を移住させて、以って生産させるのが最善である。
欧州諸国は何れもこの挙に従事し、政府を始め、公衆に至るまで、専ら植民地を他邦に求めることに勤めているではないか。
我が邦も従前のしきたりをのみ守り、内国の一点内にのみ団欒することをせず、早く海外開拓地の策を考えなければいけない。
しかし今、この会社は、上は官の保護を得、下は共同して創建した盛社である。
とすれば、広く海外に航行し、南米やオーストラリア諸州に、我が国産を搭載し、貿易を以って、益を得、植民地を開墾し、新日本を造るに及ぶべきである。
ところが今、事業を占って坤の四爻を得たので、これを観て歯痒くなった。
この会社は、私が賞嘆したくてもできない。
ただ株金資本を損耗し、小数に甘んじ、敢えて国家の洪益を考えようとしない。
これは坤卦とその四爻の辞とによって、私が推窮して明察するところである。
まことにこのようであるのならば、それは私は貴社に望むところではない。
機軸を転じて、すでに話したような一大盛挙に進んでほしいのである。
社長伊藤氏は、大いに感悟するところがあるようだった。
よって私は、タバコを一服して、その会社を出た。
六五の占例
記載なし。
上六の占例
記載なし。
用六の占例
記載なし。
ここに書いているのは、高島嘉右衛門が書いた『高島易断』の中にある占例を、現代語に意訳したものです。
すでにこのブログで書いてきた眞瀬中州の卦爻の辞の解釈とはいささか異なる面もあるが、高島嘉右衛門は中州とともに、日本の易の歴史を語る上での重要人物のひとりであって、何かと参考になることも多いと思います。
高島嘉右衛門の人となりについては、次の書籍が参考になるかと思います。
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易の初歩的なことについては、
私のサイトの易学入門ページをご覧ください。
六十四卦それぞれの初心者向け解説は、オフラインでもできる無料易占いのページをご覧ください。
占いながら各卦の意味がわかるようになっています。
なお、日本古代史に興味がある方は、是非、古事記と易学のページもご覧ください。
『古事記』『日本書紀』は、易の理論を乱数表として利用した暗号文書であって、解読すると、信じたくないような忌わしい古代日本の真実の姿が描かれていた、というハナシです。
ところで、易は中国や日本だけではなく、遠くユダヤやローマにも多大な影響を及ぼしました。
聖書と易経を比較すれば容易にわかることなのですが、キリスト教は易の理論を巧みに利用して作られた宗教だったのです。
もちろん、イエス・キリストなんて実在しません。
教義は中国古典の『墨子』のリメイク、
西暦元年は辛酉革命思想によって机上で算出された架空の年代、
クリスマスの日付も、易と辛酉革命の関係から導き出されたものだったのです。
詳細は拙著『聖書と易学-キリスト教二千年の封印を解く』についてのページをご覧ください。
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ちなみに表紙の右下のほうに白線で示しているのは、08水地比の卦象です。
キリスト教のシンボル十字架と中心教義の「愛」は、08水地比の卦象がもらたす意味と一致しています。
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