明日に架ける橋

易のこと、音楽のこと、クルマのこと、その時どきの話題など、まぁ、気が向くままに書いています。

坤為地 爻辞

02坤為地 爻辞


上六━ ━
六五━ ━
六四━ ━
六三━ ━
六二━ ━
初六━ ━○

初六、履霜堅氷至、

初六(しょりく)、霜(しも)を履(ふ)みて堅氷(けんぴょう)至(いた)る、

六とは、老陰のこと。
詳細は乾為天初九のところを参照。
霜とは冬の寒さの陰気が始めて結晶したものである。
さらに陰気が強くなって寒くなると、雪が降り、水面には堅い氷が張るようになる。
その前兆である。
また、初爻は足元の位置である。
霜は足元の地面に張るものであり、足で履(ふ)むものである。
だから、霜を履みて、という。

ちなみに、人体に爻位を当てはめるときは、各卦によって多少の違いはあるが、概ね初爻を足、二爻を脛〜膝あたり、三爻を股、四爻を腹、五爻を胸〜顔、上爻を首〜頭とする。
特に沢山咸や艮為山の爻辞は、人体と爻位の関係が中心になっている。

さて、坤為地は十二消長で言えば旧暦十月、冬の始まりのときの卦である。
寒い朝、歩くときにサクサクと霜を履むようになると、冬の訪れを感じるものだが、それから寒さは次第に増長し、やがて雪が降り、ついには水面は堅い氷に覆われるに至る。
これは自然の摂理である。
したがって、霜を履むようになったら、やがて堅氷が至ることを覚悟しないといけない。
だから、霜を履みて堅氷至る、という。

陰邪姦悪が萌芽するときは、初めは微弱にして初霜のようにすぐ消えてしまうようなことであっても、そのまま改めなければ、ついには堅い氷のような大悪に至るであろうことは、必定である。
ほんのちょっとした気の緩みが、徐々に規律を乱し、その乱れた規律の中で最後には大惨事を招いてしまうのである。
特に人間は、安易な方向に流れやすいものである。
だからこそ、霜を履む程度ならまだ間に合うから、気を引き締めて軌道修正することが大事だと諭しているのである。
なお、逆に、ほんのちょっとした善行をすれば、いつかそれが堅い氷のように広がる、という意もある。
とにかく、物事の始まりは、ほんのちょっとしたことであって、それがその行く末に繋がっているのである。


上六━ ━
六五━ ━
六四━ ━
六三━ ━
六二━ ━○
初六━ ━

六二、直方大、不習无不利、

六二(りくじ)、直(ちょく)方(ほう)大(だい)なり、習わざれども利(よ)ろしからざる无(な)し、

直は順直ということ。
六二は柔順中正にして、少しの歪み曲がりなく角ばることもないことをいう。
これは内徳(自分自身の生き方)についてのことである。
方とは方形(四角形)のことで、方形は円の対であって、円は陽にして天の形の象徴、方形は陰にして地の形の象徴である。
天空の星は北極星を中心に円運動しているのであって、大地は田畑がそうであるように方形に区切って使うと便利だからである。
円形の物体は、一旦動き出したら、なかなか止まらないものだが、これは陽の属だからである。
対する方形の物体は動かそうにもなかなか動かないものだが、これは陰の属だからである。
また、方とは方正のことであり、これは外徳(他人に対する接し方)についてのことである。
大とは広大ということで、坤地の生育の功徳が広大なことをいう。

このように、直とは順直にして徳を持って言い、方とは方正にして形を以って言い、大とは広大にして功を以って言うのである。
この卦は純陰だから、坤=地の道である。
したがって、臣の道であり、妻の道である。
また、この爻は六二だから、地の位であり、臣の位であり、妻の位である。
中の徳を得て正しき道を得た、成卦の主爻である。

成卦の主爻とは、その卦を成立させるとともに、その卦の中心となる徳性を具えた爻を言う。
この坤為地の卦の六爻中では、初と三は不中不正、上と四は正は得ているが不中、五は中を得てはいるが不正であり、ただひとつこの六二の爻だけが柔順中正を得ていて、坤陰地道の全徳を具足しているのである。
だからこれを称えて、直方大、という。
中を得るとは、構成する八卦の真ん中の位置すなわち二と五の位置にあることを言う。
正とは、陰位(二四上の偶数位)に陰爻、陽位(初三五の奇数位)に陽爻があることを言う。

およそ天下の事理は、習うことで、それを知り、記憶し、上達するものだが、すでに順直方正広大の全徳を具足しているのだから、これ以上に習う必要はない。
だから、習わざれども利ろしからざる无し、という。
无不利は、反語の文法にして、利ろしきことの至極なるを言う。


上六━ ━
六五━ ━
六四━ ━
六三━ ━○
六二━ ━
初六━ ━

六三、含章、可貞、或従王事、无成有終、

六三(りくさん)、章(あや)を含(ふく)めり、貞(つね)ある可(べ)し、王事(おうじ)に従(したが)うこと或(あ)らば、成(な)すこと无(な)くして終(お)わり有(あ)るべし、

章とは、事が成ることをいう。
文がひとつのまとまりとして形を成したものを文章というのは、そのためである。
ここでは、人の才能が有ることに喩える。
これは、雷火豊六五の、章を来たす、というのも同様である。

この坤為地は六爻純陰であり、陰は臣だから、臣下の卦象である。
したがってこの三爻も臣下にして、柔順である。
しかし、六五の君位もまた陰柔にして、三と五の関係は応でも比でもない。
とすると、この六三は、臣下だけど、その君に知られない者である。
君上に知られない臣下であるのなら、たとえ自己に才能や器量が有っても、それを懐に深く包み蔵(かく)して、よく時を待つべきである。
妄りにその才能を発露するときには、却って君上に忌み嫌われる恐れが有る。
だからこれを戒めて、章を含めり、という。
含むとは、内に有(たも)ち、外に出さないことである。

要するに、気心の知れない人から意見されると、それがどんなに正しくても、不快に感じることがある。
何かを言うのであれば、まず互いに気心が知れてからにするのが大事なのであって、今はまだ互いに相手との接点がない、ということである。

なおかつこの爻は、不中不正である。
しかも内卦の極に居るのだから、その心術身行もまた不中不正である。
人知らざるを慍(うら)み怒る振る舞いがないようにと、戒めて、貞常(つね)であるべし=貞ある可し、という。
貞常というのは、臣下の君上に仕え、子の父に仕え、妻の夫に仕える常の道のことである。

したがって、その遇不遇には構わず、忠信を主とし、誠実を尽くして、決して変革を求めないことである。
この六三の爻は、内卦より外卦へ、将に遷り転じようとする場所であり、人位の危うき地である。
殊更に、丁寧謹篤に惧れ慎むべき位である。
それでも、もしも君上から命令があれば、忠信誠実を尽くして公事に従い勉め励むことである。
ただし、よく己を慎み、命令を守り、少しでも自分が成したことを手柄にしようなどとは考えずに、その公事を完了することである。
だから、王事に従うことあらば、成すこと无くして終わり有るべし、という。


上六━ ━
六五━ ━
六四━ ━○
六三━ ━
六二━ ━
初六━ ━

六四、括嚢、无咎无誉、

六四(りくし)、嚢(ふくろ)を括(くく)る、咎(とが)も无(な)く誉(ほま)れも无(な)し、

坤は臣の卦にして、この爻は君位に近く、柔順にして正を得ている。
しかし陰爻なので、六五の君と親しく比してはいない。
これは君上から信頼信用されない大臣である。
このときに当たっては、嚢(ふくろ)の口を括る如くに口を塞ぎ、発言しないようにするのがよい。
そうすれば、咎もなく、誉れもなく、災いに至ることはない。
だから、嚢を括る、咎も无く誉れも无し、という。
そもそも自分も含めて、賢明な陽がひとりも居ないのが、この卦である。
賢明な人がひとりも居なければ道は無いに等しい。
したがって、道が無い時の大臣は、ひたすら愚者の如くにしているのがよい、ということでもある。
咎无しとは、道に違わないので災難がない、ということである。
誉れ无しとは、為し行うことがないので功名もない、ことである。


上六━ ━
六五━ ━○
六四━ ━
六三━ ━
六二━ ━
初六━ ━

六五、黄裳元吉、

六五(りくご)、黄裳(こうしょう)元吉(げんきち)

黄は中央の土の色であり、中の喩えである。
ここで言う中とは、忠信の忠のことである。
裳は衣裳の下の服であり、臣下の喩えである。

この卦は、初六から六四までは、六五の位を君上として解説している。
定位では五が君主の位置であることから、そうしているのである。
しかし今、五の爻を観ると、君上とは言いにくいのである。
そもそも坤の卦は、純陰なのだから、全体が臣下の卦徳なのである。
したがって、六五も直ちに君上とはせず、臣下の高位厚爵の重職にある大臣とするのが適切である。
しかも、柔中の徳を具えているので、大臣にして忠信篤く、臣節固く、よく国家を輔弼して、臣たる道を守る者である。
だから、黄裳元吉、という。
もしもこの位に臨み、この時に遇い、この黄裳の忠信の道を守るならば大善の吉である。
しかし、臣下としての分を弁えず、忠信ならざるときは、大悪の凶である。
『春秋左氏伝』昭公十二年には、この卦この爻を得て、この黄裳の忠信の義を守らなかったために、身も家も敗走してしまった、という故事がある。
もとよりこの卦は純陰にして、陰の勢いが盛大である。
そこで、六五の爻は君位に当たるので、この時この位に当たる人の、その威福権勢に乗じて臣下たる道を失い、或いは君家を蔑視することを深く惧れ憂い、黄裳なるときは元吉、ならざるときは大凶だ、と諭すのである。


上六━ ━○
六五━ ━
六四━ ━
六三━ ━
六二━ ━
初六━ ━

上六、竜于野戦、其血玄黄、

上六(じょうりく)、竜(りょう)野(や)に戦(たたか)う、其(そ)の血(ち)玄黄(げんこう)なり、

竜野に戦うとは、二つの竜が野に戦うことである。
もとより竜は陽の属であり、野は陰の属である。
戦うとは、陰陽が敵対して闘い迫り撃つことである。
其の血とは、戦いで流す血であって、その傷害の甚だしい様子を示す。
玄黄とは、天地の色にして、陰陽の両方が傷害を被ることを示す。

この卦は純陰にして、この上爻はこれまた卦の極に居る。
これは、陰の勢いが盛大至極な者である。
初六の爻にて霜を履む時から進んで、この上六のときは、要するに堅き氷に至ったときである。
陰の勢いが盛大に至れば、必ず陽を剥し尽くそうとし、臣の勢い壮ん至れば必ず君を凌ぎ侵そうとするものである。
妻の夫に於けるも同様である。
すでに剥し尽くそうとし、凌ぎ侵そうとするに至るときには、その勢いは必ず戦いになるものである。
すでに戦いに至れば、盛大であっても、所詮は陰であり臣下である。
相手は衰微したとしても陽であり君上である。
とすれば、簡単には決着が付かない。
したがって陰陽君臣双方が傷害を被るのである。


上六━ ━○
六五━ ━○
六四━ ━○
六三━ ━○
六二━ ━○
初六━ ━○

用六、利永貞、

用六(ようりく)、永(なが)く貞(つね)あるに利(よ)ろし、

用六とは、本筮法や中筮法で占い得たとき、すべての爻が老陰すなわち爻卦が坤のときをいう。
なお、略筮法で占うときには、この用六の爻辞は使う機会がない。

この坤為地は純陰にして全体の意は、臣の道、妻の道である。
もとより臣と妻とは柔順純誠にして、君や夫に対して順徳を固く守り、その志を変じ革めることが無いのを第一の徳とする。
しかし今ねこの用六のときは、全卦六爻が悉く変じ動こうとする。
したがって、その志が変わることを恐れるのである。
だから、深く戒めて、永く貞あるに利ろし、という。
この貞は、貞常(つね)という意である。
恒常のこととして、永く、陰の道、臣の道、妻の道を固く守り、不変であれば、それが大善であって、少しでも変動することは大凶悪の道だと、警戒しているのである。

ここに書いているのは、江戸後期の名著、眞勢中州の『周易釈故』より抜粋し、現代語で意訳したものです。
漢字は原則として新字体で表記しています。
易の初歩的なことについては、
私のサイトの易学入門ページをご覧ください。
また、六十四卦それぞれの初心者向け解説は、オフラインでもできる無料易占いのページをご覧ください。占いながら各卦の意味がわかるようになっています。
なお易は、中国や日本だけではなく、遠くユダヤやローマにも多大な影響を及ぼしました。
聖書と易経を比較すれば容易にわかることなのですが、キリスト教は易の理論を巧みに利用して作られた宗教だったのです。
詳細は拙著『聖書と易学−キリスト教二千年の封印を解く』についてのページをご覧ください。

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坤為地

02 坤為地(こんいち)
konichi.gif坤 坤下坤上(こんか こんじょう)

八卦のkonchi-n.gif坤(こん)を重ねた形だから、坤と言う。

坤とは、従順、おとなしい、といった意味。
六本すべてが陰なので純陰であり、陰は、その性は柔、その徳は従順、その体は方正、その用は厚く載せるであり、退き止まり承け順う徳がある。
従って、その陰の特質をもって坤と名付けられた。

卦辞
坤、元亨、利牝馬之貞
坤は、元(おおい)に亨(とお)る、牝馬(ひんば)の貞(ただし)きに利(よろ)し、

元いに亨るとは、大いに通じる=目的を達成できる、ということであって、その義は乾の卦辞と同じである。
しかし乾のときの元亨は、剛健だからこそであって、この坤の場合は、従順であってこそ、元いに亨るのだ。
牝馬というのは、メスすなわち陰の馬のことである。
そもそも馬は、従順にして、よく人に馴れ従うが、牝馬ならその性質はなおさらである。
だから牝馬のように、従順に、臣や妻のように、君や夫に、貞正に従うのが利ろしい、と言う。

君子、有攸往、先迷、後得主、安貞吉
君子(くんし)往(ゆ)く攸(ところ)有(あ)れば、先(さき)には迷(まよ)い、後(おく)れれば主(しゅ)を得(え)る、

君子とは、下の者の上に立つ人物を指す言葉だが、この卦においては臣や妻など、同時に上に従うことも大事にしなければいけない立場の者を指す。
会社で言えば中間管理職といったところだろうか。
陽は陰に先立ち、陰は陽につき従うものである。
もし、陰なる者が、陽より先に出て何かをやろうとすれば、道に迷い失敗する。
それが、君子往く攸有れば、先には迷い、ということである。

したがって、よき陽の先導者を見つけ、その後ろに従ってついて行くのがよい。
これが、後れれば主を得る、ということである。

そして、これこそが陰徳として貞(つね)に大事にするべきことであり、そのスタンスに安んじていれば、何事も無事に進み、吉なのだ。
だから、安貞吉と卦辞は締めくくられるのだ。


ここに書いているのは、江戸後期の名著、眞勢中州の『周易釈故』より抜粋し、現代語で意訳したものです。
漢字は原則として新字体で表記しています。
易の初歩的なことについては、
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